
【細胞章魚跋扈図】
¥380,000 税込
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号数:Size/F10(H53,0cm×W45,5cm)
製作年:Year of creation/2022.
技法:Technique/Mixed media
素材:Material/珪藻土、変形菌胞子、カニの脱皮殻、ムラサキウニ、天然石(ローズクォーツ・クリソコラ・ラピスラズリ・ターコイズ)、三千本膠、柿渋、アクリル、油彩、UVカット用ミルクメディウム、セラミックスタッコ、白墨(複数変形菌胞子と炭酸カルシウム形質の自然由来混合物)
※額装はアクリルボックスにて別途承ります。ご希望の方はコメントしてください。
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_____Statement_____
【安楽寺の章魚阿弥陀伝説信仰】
制作の題材とした日間賀島に位置する安楽寺に伝わる「章魚阿弥陀」の伝説は、単なる民間信仰の逸話に留まらず、自己犠牲と無私の精神を象徴する深い文化的・宗教的意義を内包している。
《概要》
安楽寺に伝わる話によれば、かつて地震によって海に沈んだ仏像が引き揚げられた際に一匹の巨大な章魚がその仏像を保護するように抱きついていたという。
この出来事は地域の漁民にとって奇跡とみなされ、仏像を安楽寺に安置した後、大漁が続いたことから「章魚阿弥陀」として信仰の対象となった。
それは日本沿岸部の漁業文化における自然と神仏の結びつきを象徴するものであり、特に海を生活の基盤とする地域社会において動物が神聖な存在を守るというモチーフが古代から中世にかけての日本神話や仏教説話に見られるアニミズム的要素を想起させる。
『日本書紀』や『風土記』に見られる自然界の精霊や動物が神々の意志を体現する物語は、章魚阿弥陀の伝説と通底するものがある。
また、章魚が仏像に「抱きつく」という行為は、仏教における「護法」の概念とも関連付けられる。
護法とは仏法を守護する存在であり、善神や動物がその役割を果たす例は『法華経』や『大般涅槃経』などの経典にも見られる。
章魚が仏像を守る姿は、"自己を犠牲にしてでも仏法を護持する無私の精神を象徴"し、地域住民の信仰心を強化する契機となった。このような伝説は地域の漁業繁栄と結びつき、経済的・精神的安定をもたらす信仰のシンボルとして機能したと考えられる。
章魚の死をもってしても仏を守り抜くという姿が脳裏に焼き付き、感化されるがままに描画した。
この心は、仏教の菩薩行やキリスト教の殉教、さらには日本の武士道における忠義の観念とも共鳴する教訓的なテーマである。
章魚が仏像に抱きつき、自らの命を捧げる姿は、個を超えた大義への献身が通じたものだ。
この点で本作品は単なる宗教的逸話の再現に留まらず、人間存在の根源的な問い——すなわち、自己と他者のために何を犠牲にできるのか——を視覚的に表したいと発起した。
自己犠牲のテーマは、歴史的文献においても類例が見られる。例えば『今昔物語集』には、動物が仏法のために自らを捧げる説話が散見され、これらは中世日本の仏教文化において動物にも仏性が宿るという「草木成仏」の思想と結びつくだろう。
章魚阿弥陀の伝説も、このような思想的背景に根ざしている可能性があり、章魚の行為は単なる本能的行動ではなく、仏法への奉仕として解釈されたのではあるまいか。
作品に施した「砕け散るような紋様」は、章魚が死に際に既に細胞破壊(アポトーシス)が始まっている状態を表現している。
アポトーシスはプログラムされた細胞死として知られ、生物の個体維持や組織の恒常性に不可欠なプロセスである(Kerr et al., 1972)。
章魚が仏像を守るために命を捧げ身体が細胞レベルで崩壊していく様を散分し視覚化した。科学的現象を詩的・象徴的に昇華させた試みであり、生命の儚さと同時にその崇高さを浮き彫りにする。
アポトーシスのプロセスは細胞が自ら死を選択することで全体の調和を保つという点で、章魚の自己犠牲的行為とパラレルな関係にある。
科学的には、アポトーシスはDNA断片化や細胞膜の崩壊を伴う。(Wyllie, 1980)
ダミアン・ハーストの死と再生をテーマにした作品群へのオマージュとしても取り入れている。
さて、この章魚阿弥陀の行為は、仏教の護法思想や日本古来のアニミズムと結びつき、地域社会の信仰を支えるシンボルとして機能してきた。
一方、作品に取り入れられたアポトーシスのモチーフは、生命の終焉を科学的に捉えつつ、それを芸術的表現として昇華させる試みである。
このように、本作品は信仰心と科学的理解の交錯を通じて、生命の尊厳と犠牲の意味を問いかける。
参考文献
『日本書紀』、岩波書店、1967年。
『今昔物語集』、岩波文庫、1986年。
Kerr, J. F. R., Wyllie, A. H., & Currie, A. R. (1972). Apoptosis: A basic biological phenomenon with wide-ranging implications in tissue kinetics. British Journal of Cancer, 26(4), 239–257.
Wyllie, A. H. (1980). Glucocorticoid-induced thymocyte apoptosis is associated with endogenous endonuclease activation. Nature, 284(5756), 555–556.
#赤城美奈
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